うみねこのなく頃に episodeT‐V 『dubious move』{デュビアス・ムーヴ}
配役 ♂:6 ♀:5 右代宮夏妃 :女 |
−OP−
<倉庫>
SE*秀吉、嘉音が倉庫に入る。
秀吉 :譲治、お前が最後に紗音ちゃんに会ったのは、昨日か?
譲治 :あぁ…。
秀吉 :紗音ちゃんは、別れ際にどんな顔を見せたんや?
SE*紗音の顔を思い浮かべる譲治。
譲治 :うぅ…。素敵な、笑顔だったよ…。
秀吉 :なら紗音ちゃんはその笑顔を、お前に残したいと願うはずや。
見ないでおいてやれ…。
譲治 :…うぐッ…。父さん…。
秀吉 :んん?
譲治 :僕の代わりに… 見てほしいんだ…。
紗音の指に… 指輪を付けてるか…。
秀吉 :…指輪…。
SE*嘉音が指をさす。指輪がはめてあった。
秀吉 :あぁ…。あるで…。ダイアの指輪や。
譲治 :どっちの手の…どの指に…。
秀吉 :左手の… 薬指や…。
譲治 :っ……っ…。
絵羽 :譲治ッ! あんたまさかっ。
秀吉 :絵羽!
絵羽 :はっ。
秀吉 :誰が紗音ちゃんに指輪をあげたかは、知らん。
知らんが、紗音ちゃんが自分の意思でそれを受け入れ、
左の薬指に通した…。
……それで、えぇやないか。
譲治 :うぐッ…くッ… 紗音…。
<ゲストハウス>
真里亞:ママが…?
南條 :うん…。蔵臼叔父さんと、留弗夫叔父さん、
霧江叔母さん、郷田さん、それに、紗音ちゃんもだ。
夏妃 :わたくしは、お父様のところへ報告に行きます。
まだ事件をご存じないはずですから…。
絵羽 :私も行くわ。
…蔵臼兄さんがいなくなった以上、
お父様の補佐は私の仕事ですものぉ。
夏妃姉さんにまかせっきりというわけにはいかないわぁ。
夏妃 :…お好きになさるといいでしょう…。
SE*夏妃と絵羽が部屋から出ていく。
南條 :なんともたくましい…。
SE*熊沢が急いで部屋に入ってくる。
熊沢 :あ、あのォ! 食堂にっ!!
<食堂>
SE*食堂の絨毯が血まみれに。
熊沢 :朝食の準備に来たら、こんなっ…。
戦人 :犯人は夕べ、ここで親父たちを…。
秀吉 :わしと絵羽が部屋に戻ったんが、夜中の12時過ぎやったから、
犯行はその後やな…。
真里亞:………きしし。
<応接間>
朱志香:戦人… 大丈夫か…?
戦人 :あぁ…。今は悲しさより、怒りの感情の方が強い…。
犯人がどこのどいつか知らねぇが、絶対に許さねぇ…!
譲治 :僕も… 悲しくてたまらないのに… 妙にぼんやりして…。
SE*秀吉・南條・真里亜が話しをしている。
南條 :たしか、このような。
うろ覚えですが…。
秀吉 :真里亞ちゃん、こういうことに詳しいんやろ?
なんか心当たりはないか?
真里亞:…きし…きし… きししししし!! きししししし!!
…こんなのもわからないの…?
SE*真里亞がすごい勢いで書いていく。
真里亞:これは、太陽の7の魔法陣だよ。
束縛から逃れ、自由を得られる力を授け、
そういう意味…。
南條 :束縛から逃れて… 自由を…。
真里亞:旧約聖書の詩篇、第116編の16節と17節だよ。
きしししし。きしししし…。
戦人 :………。
SE*夏妃と絵羽が部屋に戻る。
南條 :警察に連絡はつきましたかな…?
呂ノ上:それが、無線が故障していて、
外部と連絡が取れません。
明日、迎えの船が来るまではどうすることも…。
戦人 :ってことは、親父たちを殺した犯人…。
まだこの島にいるってことかっ…。
真里亞:うー…。犯人は人間じゃない…。
戦人 :えっ。
真里亞:…が…選んだ…だけ。
戦人 :えぇ?
絵羽 :それから、お父様はいなかったわ。
部屋は空っぽだったのよ。
夏妃 :犯人はどこにいるのかわかりません。
なるべく一緒に行動して、お父様を探しましょう…。
絵羽:………。
<廊下>
呂ノ上:あと、まだ探していないのは…?
嘉音 :使用人室が、まだです。
お館さまがお出でになる可能性は、低いと思いますが…。
<使用人室>
嘉音 :やはりいませんね…。
戦人 :源次さん、薔薇庭園の倉庫の鍵って、ここにあるやつだけか?
源次 :はい。合鍵は作っておりませんので、その一本しかございません。
戦人 :すると…。妙なことにならねぇか?
犯人は、6つの死体を倉庫に放り込んで鍵をかけたあと、
その鍵を捨てちまえばいいのに、またここに戻って、
わざわざ鍵を返したってことになる。
犯人がこの鍵を使ったことにすると、
かなり屋敷に詳しいってことになるな。
朱志香:…まさか… 犯人がこの中にいるなんて言わねぇよな…。
戦人 :そこまでは、さすがに…。ハハハ…。
<1階フロア>
夏妃 :どこにもいらっしゃいませんね…。
嘉音 :そうですね…。
SE*戦人と絵羽が話す。
絵羽 :叔母さんは一理あると思うわよ。
戦人 :へ?
絵羽 :犯人は屋敷の内部に詳しいってこと。
でも、使用人室には普段、家の者は入らない。
…ということは…?
戦人 :まさかっ! 叔母さんは使用人の誰かが犯人って…。
絵羽 :犯人は1人じゃないわね。6人もの人間を殺して、
わざわざ外の倉庫にまで運んだのよぉ。
1人でできることとは思えないわぁ。
戦人 :ひょっとして、使用人が全員グルとかって考えてません?
絵羽 :シー。憶測で言っちゃ悪いわよ。
仮にそれが本当だとしたら、彼らは私たちを生かして返さないでしょうね…。
戦人 :…だとしたらかえって、使用人の人たちは怪しくないかもしれないっすよ。
絵羽 :あら… どうして?
戦人 :だって、本当に犯人なら、
わざわざ自分たちが疑われるような状況は作らない…。
…事故にみせかけるとか、他にやりようがあるじゃないですか。
絵羽 :…たしかにそうかもね。
戦人 :俺、霧江さんに、
チェス盤をひっくり返す思考法ってのを教わったんです。
つまり、相手がこっちにどういう印象を与えようとして行動してるのか、
それを裏読みするってことです。この場合は…
絵羽 :いかにも使用人たちが怪しい…。それは犯人の工作ってわけね…。
戦人 :えぇ…。少なくとも犯人には、あんな風に死体を集めて、
これ見よがしに犯行をアピールする理由があったんですよ。
絵羽 :冷静なのねぇ…。そういうとこ、お父さんの留弗夫に似てるわぁ。
戦人 :……。
絵羽 :でも良かった。その考え方なら、うちの一家も疑われずに済むわ。
戦人 :どういう意味っすか。
絵羽 :だってぇ、この殺人で一番得をするのは私だもの。
4兄弟のうち、生き残ったのは私1人…。
今や右代宮家の全財産は私のもの。ふふふ…。
でもね戦人くん、もし私が犯人なら、
こんな真っ先に自分が疑われそうな殺人はしない。
もう少し上手にやるわよ…。
戦人 :……。
SE*缶詰を食べる一行。
<厨房>
嘉音 :どうして、ベアトリーチェ様は、紗音を…。
呂ノ上:すべては運命だ。
嘉音 :はっ 源次さま、奥様の部屋の扉に、
血のような跡がついていたと、おっしゃいましたね。
呂ノ上:うむ…。気味の悪い、跡だった…。
嘉音 :ベアトリーチェさまでしょうか…。
…だとしたら、どうして奥様は、生贄を免れたんだ…。
もし選ばれてたなら、紗音は…。
紗音は死なずに済んだのにっ!
SE*扉が思いっきり開く。
呂ノ上:おォっ!
戦人 :面白い話ししてるじゃねぇか。
…つづきを聞かせてくれよ。
SE*一部始終を話す使用人。
嘉音 :ベアトリーチェさまは、六軒島の森に住まわれる魔女…。
お館様に黄金を授けお使いした、実在する方なのです。
戦人 :そいつは今、この島にいるんだな…。
嘉音 :はい…。
戦人 :顔は見てないのかよ…。
熊沢 :ほほほほほほ。お顔を見ようにも、
ベアトリーチェ様にはお姿がありませんから…。
戦人 :えぇ?
呂ノ上:ベアトリーチェさまには、お体がありません。
…人の姿をされていた頃の絵が、あの肖像画だそうです。
嘉音 :ベアトリーチェ様は時折、黄金の蝶に姿を変えて現れることがあるだけです。
戦人 :なに言ってんだよ…。魔女だの魔術だのってのは、
じい様の言ってる戯言{たわごと}だろ?
熊沢 :ベアトリーチェ様はいるんですよ。
戦人 :っ……。
嘉音 :ベアトリーチェ様はすでに、お越しになってます。
戦人 :えぇっ!?
SE*戦人は3人の使用人の顔を見る。
戦人 :っ… くっ!!
真里亞:きしししし。
戦人には見えないんだよ。
戦人は、波長が合わないんだねぇ。
戦人 :真里亞…。
真里亞:だから見えない話せない…。
でもいずれ、ベアトリーチェは蘇る。
お前にも見えるようになる。
きっしししし。
…戦人、まだ気づかない?
ベアトリーチェが"いる"のを。
戦人 :いるって… どこに…。
真里亞:ここだよ。
ベアトリーチェは今、ここにいるんだよ。
…サソリのお守りを持ってて良かったねぇ。
あれがなかったら、
今頃戦人が死体になってたかもしれないよォ。
戦人 :くっ!!
真里亞:きししししし♪ きししししし♪ きししししし…♪
戦人 :…悪いが俺は夕べ、あのお守りを持ってなかったんだ。
どっかに落としちまったのさ。
真里亞:っ…!!
戦人 :だから俺がここにいるのは、お守りのおかげじゃねぇ!
魔女の呪いなんかなかった!
そうさ、魔女なんかどこにもいねぇ。
俺はそんなもんは信じねぇっ!!!
真里亞:……うぅ…。(唸るように)
<ゲストハウス>
SE*アニメを見てる真里亞。
南條 :それは、金蔵さんの銃ですな…。
夏妃 :万が一に備えてです。
わたくしには、主人に代わって、
皆さんを守る義務がありますので…。
朱志香:嘉音くんがそんなことを…。私も魔女なんて信じないぜ…。
ただ使用人たちの間で、ベアトリーチェの話しが、
ある種の怪談みたいになってるのは知ってた…。
譲治 :…紗音もそんな話しをしていたよ…。
戦人 :そこでチェス盤をひっくり返す。
朱志香:え?
戦人 :犯人はあの殺人を、魔女の仕業ということにしたいわけだ…。
言い換えれば、犯人は外部の者だと思わせたい。
朱志香:それって、ベアトリーチェという19人目がいるってことかよ…。
戦人 :そうアピールしたくて仕方がない人間が、俺たち18人の中にいるってことだ。
譲治 :たしかに、この島では、
人間業でできないことが起こると、
魔女の仕業だと解釈されてしまう…。
…覚えているかい、
真里亞ちゃんが夕べ持ってた手紙の内容…。
朱志香:あぁ…。じい様が黄金を資本に生み出したもの全てが利子だって…。
譲治 :こういう考え方はどうだろう。
子供や孫の僕たち、使用人のみんなも、
おじい様が黄金を下に生み出したもの…。
戦人 :…つまり、俺たちの命も、回収される利子ってことか!
譲治 :仮説だよ。ただ、もしこの仮説が当たっていたとしたら…。
朱志香:…でもあの手紙に、黄金の謎を解いたら、利子の回収はしないって…。
戦人 :言い換えるとこうか。
ベアトリーチェに殺されたくなければ、
黄金の謎をみんなで解いてみろ。
秀吉 :たしかに、そう考えるとあの怪しい手紙も納得がいくというもんや。
夏妃 :犯人は隠し黄金のありかを、わたくしたちに見つけさせようとしていると…。
南條 :だが、それなら金蔵さんに直接問いただす方が簡単でしょう…。
いきなり6人もの人間を、殺す必要はない。
戦人 :まさか、じい様をどこかに監禁して、脅迫してるとか…。
黄金のありかを吐かないと、家族をどんどん殺していくぞって…。
絵羽 :んふ面白い話しになってきたわねぇ。
そもそもお父様っていついなくなったのかしら?
最後にお父様に会ったのは誰?
夏妃 :わたくしだと思います。今朝、書斎で挨拶をしました。
…源次、この鍵を借りたままでしたね。
返しておきます。
SE*絵羽がなにか企む。
絵羽 :ねぇ源次さぁん、確認しておきたいんだけど、
お父様の書斎の出入り口は、1つだけね?
源次 :はい、出入りをするには、廊下に面した扉しかありません。
譲治 :母さん…?
絵羽 :私ねェ、気づいたことがあるのぉ。
いつ言おうかタイミングを見計らっていたんだけど、
さっき夏妃姉さんと書斎に行ったとき確認したの。
このレシートがドアに挟まったままになっているのをね…。
…今朝7時頃、書斎の前で一度、
姉さんとすれ違ったわよねぇ?
姉さんが行ったあと、
私気まぐれでちょっと悪戯をしたのォ…んふ。
このレシートを書斎の扉に挟んでおいたのよぉ。
それから朝9時頃、蔵臼兄さんたちが殺されたあと、
2人でまた書斎に行ったわよねェ…。
戦人 :…つまり、朝7時から9時まで、誰も書斎を開けていない…。
夏妃 :…なにをおっしゃりたいのです…?
絵羽 :扉を使わず、どうやってお父様は外に出たのかしらぁ?
夏妃 :そんなことは知りませんっ!
わたくしも教えてもらいたいくらいですっ!
朱志香:叔母さんなにが言いたいんだよ!?
絵羽 :例えばこういう解釈はどうかしらぁ?
"朝、夏妃姉さんがお父様に挨拶に行く。"
"そして……。"
SE*夏妃が金蔵を殺して外へ投げ捨てる。
絵羽 :"部屋から出たとき、なに食わぬ顔で私と言葉を交わす。"
"お父様の遺体は、その後どこかに隠した。"
朱志香:どうして母さんがそんなことしなくちゃならないんだよっ!!
絵羽 :右代宮家の財産を独占するためよォ。
7年間行方不明のままなら、
法律上死者と同じ扱いになる。
遺体を隠して、7年待つつもりかしらぁ?
夏妃 :…今朝、わたくしはたしかにお父様に会いました…。(震えながら)
そして、お前の心には片翼の鷲が刻まれていると、
お言葉を頂いて…。
…あのお言葉をっっ 否定すると言うのですかっっ!!
SE*夏妃が絵羽に銃口を向ける。
絵羽 :なにぃ? それで私を撃つのぉ?
いいわよ撃っちゃえば!? やりなさいよ!
暴力で真実を誤魔化してごらんなさいよっ!
夏妃 :おのれぇぇぇっっっ!!!!(怒)
戦人 :えっへへへへ。駄目だな、全然駄目だぜ。
夏妃叔母さんを犯人だと決め付けるのは早い。
絵羽 :ふぅん。
じゃぁどうやってお父様は部屋から消えたのかしらぁ?
戦人 :消えてなかったのさ。つまり…。
叔母さんたちが書斎に入って…。
じい様がいないのを確認して…。
部屋を出たあと…。
…こうすりゃ、夏妃叔母さんの証言に、矛盾は生じない。
絵羽 :ハッ、なによそれ!
どうしてお父様がそんな妙なことをしなくちゃならないのよっ!
戦人 :ならっ!
絵羽叔母さんこそ、
なんだってレシートを扉に挟むなんて妙なことをしたんだ?
叔母さんたちはアリバイも怪しいし、
遺産相続っていう動機もある!
朱志香:そうだぜ! 母さんを疑う前に、叔母さんたちが、
夕べ父さんを殺してないってことを証明してみろよ!
絵羽 :……。っ……。
<個室>
SE*部屋の鍵をかける秀吉。
秀吉 :そういちいち、夏妃姉さんに突っかからんでもえぇやないか。
絵羽 :だってぇ、私…子供の頃から蔵臼兄さんが嫌いだった…。
いつか蔵臼兄さんを出し抜いて、
私がお父様の後を継ぎたい…。
そのことばかりに… 心を囚われていた…。
譲治に軽蔑されちゃったかしら…。
秀吉 :あいつは親の気持ちがわかる子や。
お前は、息子のために家を継ごうとしている。
それはちゃんと理解してるはずや…。
絵羽 :ならいいんだけど…。
秀吉 :わしはお前と一緒になって今日までの生活を後悔したことは、一度もないで…。
絵羽 :………。
あなたと一緒になれて、良かった…。
<絵羽・秀吉の部屋前>
SE*ノックをする呂ノ上。
呂ノ上:絵羽様、秀吉様、お夕食の準備が整いました。
嘉音 :……?
源次さまっ これは!?
SE*扉の下に手紙が挟まれている。
呂ノ上:っ!?
絵羽様、秀吉様! いらっしゃいますか!
いらしたらお願いします! 絵羽さまっ!
SE*無反応なので合鍵を使う呂ノ上。
呂ノ上:……。
SE*ガチャ。内側からチェーンがかけられている。
呂ノ上:絵羽様っ…。秀吉さまっ…。
…私は夏妃様にこのことをお知らせする。
お前は熊沢とチェーンを切れ。
嘉音 :…はい。
SE*熊沢とチェーンを取ってくる。
嘉音 :はぁはぁはぁ(走)
っっ!? これは!?
SE*部屋の扉に魔法陣が書かれてある。
熊沢 :ひぇぇぇぇぇっ!!
SE*チェーンを切って中に入る嘉音。
嘉音:はぁ…。絵羽さま…。
はっ!?
SE:絵羽が頭に杭を刺されて死んでいる。
熊沢 :ひぃぃぃぃ!?Σ
嘉音 :秀吉さまっ!
SE*秀吉は湯船で同じく杭を刺されて死んでいる。
−ED−
うみねこのなく頃に episode T-V 完